苦し紛れの「更正」決定 |古田法律事務所

事務所通信

4月,東京簡易裁判所に損害賠償請求(交通事故)の訴えを提起した。

依頼者は,昨年まで名古屋市内に居住していたが,訴え提起時には東京都に転居していた。加害者が交通事故の発生自体を否定しており(当時の実況見分等では認めているが,後になって否認に転じた),本人尋問が実施される見込みである(もっとも,実施せずともその他の証拠から交通事故の発生は確実に認定される見込みである。)ことから,本人出頭の便宜のため,東京簡易裁判所に訴えを提起した。なお,相手方代理人とは既知の間柄であり,昨年から,「本人が東京都に引っ越す予定なので,東京簡易裁判所に訴え提起をします。」とお知らせしていた。

訴え提起後,相手方代理人も既に委任状を東京簡易裁判所に提出している状況で,裁判所書記官から,「裁判官が名古屋でやったらどうかと言っている。」という電話があった。本人の出頭の便宜のために東京で訴え提起した旨を伝えたところ,書記官は理解されたようで,朗らかな対応であった。

しかし,その後しばらくして,相手方代理人から民訴法第17条に基づく名古屋簡易裁判所への移送の申立てがなされた。この移送申立書には殆ど中身がなく,同条の要件を正解していないものであったが,従前のやり取りから(担当)裁判官による作為の可能性を感じた。詳細な意見書を提出したが,数日後,「予想通り」というべきか,名古屋簡易裁判所への移送決定が下された。

この移送決定の主文は,なんと,民訴法第「18」条に基づき名古屋簡易裁判所に移送する,というものであった。我が目を疑った。民訴法第18条は,簡易裁判所から地方裁判所への裁量移送を規定するものであり,簡易裁判所間の移送を規定するものではない。さすがに「書き間違い」だろうと思い,決定の理由を確認した。

しかし,理由中の判断は,「民訴法第17条の定める訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るため必要があると認められるか否かを検討する必要がある」という記載こそあるものの,その後の部分では「著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るため必要がある」か否かについての当てはめを一切行わないなど本筋から外れていき,結論部分においては,「名古屋簡易裁判所において訴訟進行するほうがメリットは多い」から「民事訴訟法第18条に基づき,主文のとおり決定する。」としていた。

民訴法第17条に基づく移送の要件は,「著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るため必要がある」か否かであり,「メリットは多い」か否かではない。そのため,移送決定は,およそ同条に基づく移送について判断したものではなく,まさに第18条に基づく裁量移送について判断したものと理解するほかなかった。繰り返しになるが,東京簡易裁判所の事件を裁量移送する先は東京地方裁判所であり,名古屋簡易裁判所ではない。

以上の経緯で,移送決定は民訴法第17条と第18条とを混同してなされたものであり,第18条に基づく名古屋簡易裁判所への移送は違法であるとして,即時抗告を申し立てた(抗告審で民訴法第17条の要件該当性が改めて審査されることから,同条の移送が認められないことについても述べている。)のであるが,2週間後,東京簡易裁判所から,「18条」とあるのを「17条」に更正する,との決定が届いた。

前記のとおり,移送決定は,民訴法第17条の要件該当性について一切判示しておらず,「名古屋簡易裁判所において訴訟進行するほうがメリットは多い」ことをもって民訴法第18条に基づく移送決定をしており,「18条」とあるのが更正決定の対象たる「表現の誤り」ではなく,実質的な判断の誤りであることは明らかであった。「人を欺いて財物の交付を受けたから,恐喝罪」と言っているようなものである。

 

かくして,要旨,「明らかに更正決定の対象とならない実質的判断の誤りを糊塗するものである」という内容の即時抗告申立書補充書を追加提出した。

未だに抗告審に記録が送られていないということであり,指定済みの第1回期日はいずれにしても取り消されるだろう。移送決定が「メリットは多い」とした理由の1つとして,「代理人の他の受任事件との競合等を考慮すると,迅速かつ機動的な訴訟進行という観点」が挙げられていた(もちろん,「他の受任事件との競合」について,移送決定に先んじて裁判所から一切の照会はない。)が,「迅速かつ機動的な訴訟進行」とは,果たしてどの口が言うのだろうと,ほとほと呆れるばかりである。

(古田宜行)

 

 

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