「最小限」の勾留延長請求(そして却下) |古田法律事務所

事務所通信

先日,検察官による勾留延長請求に対する意見書を提出し,却下決定を得た。

事案は軽微な器物損壊事件であり,依頼者は定職を有し,同居の親族がおり,事実について認めており,前科もなかった。

そもそも勾留決定自体違法・不当と思われた(もっとも,勾留決定に対する準抗告は棄却された。)という点はいったん措くが,検察官を介して被害者に被害弁償(余談であるが,私は「示談」という言葉が好きではないので,極力使用していない。)の申出をしたものの連絡をとること自体を拒絶されたことから,もはや被害弁償の見込みもなく終局処分の機が熟していることが明らかであり,したがって10日間の勾留決定期間中に終局処分(略式命令が確実。)を決定されたい,と検察官に通知したところ,勾留期間満了日(土曜日)の2日前(木曜日),検察官から,「明日勾留延長をする。期間は最小限の5日間とする。」という電話があった(ただし,私が直接対応したものではなく,電話を受けた事務局が残した電話メモによる。)。

依頼者は,既に水曜日に検察官調書の作成を済ませており,木曜日には現場の引き当て及びこれを踏まえた供述調書の作成も済ませていた。果たして,検察官が企図した「5日間」の延長が実現したとして,うち1日は日曜日であり取調べがあるとは思われず,うち1日は在庁略式の手続のために用いられることが明らかであり,うち1日は終局処分のための整理,決済のために充てられるのだろうと推察された。そうすると,検察官が捜査のために用いるであろう期間は,実質わずかに2日間であり,かつ,それまでの捜査の進捗状況からして積み残しの捜査はなく,真実この2日間で意義ある捜査が実施されるとは到底思われなかった。

以上の経緯を踏まえて,金曜日の午前中,勾留延長請求の却下を求める意見書を裁判所に提出したところ,午後早々に勾留延長請求却下決定の知らせが届いた。延長期間を限定する決定は珍しくないが,全面的に延長請求を棄却する決定は(準抗告によった場合を除き)初めての経験であった。

本来,勾留期間の延長は,積み残しの捜査を実施するためのものである。しかし,実体として,度々捜査機関の「土日休み」や決済・在庁略式手続のために用いられていることに対しては常々憤りを覚えていたが,至極真っ当な判断に溜飲が下がる思いであった(もちろん,当初勾留決定に対しては至極不満である。)。

察するに,検察官は,私に対する「挑発」としてではなく,「善意」で「最小限の5日間」の延長を予告したのであろう。かかる「善意」が,それ自体身体拘束が例外的な措置であることに対する意識の欠如に由来するものであることは言うまでもないが,残念なことに,多くの身柄裁判においてはかような「善意」すら示されず,漫然と10日間の勾留延長請求がなされ,やはり漫然と10日間の延長を認める決定がなされているのが実情である。

なお,依頼者は,勾留延長請求却下決定後,当初勾留決定の満期日である土曜日を待たず釈放された。今回の勾留請求却下決定で,検察官が誤った「善意」から目を覚ましてくれたのであれば,何よりである。

※今回から「である」調を用いることにした。

(古田宜行)

 

 

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