弁護人の取調立会いを求めて |古田法律事務所

事務所通信

先日,私が刑事事件の弁護人を務めた事件において取調べに弁護人の立会いを求めていたところ依頼者が再逮捕されたことについて,検察官と裁判所の行為の違法性を問う国家賠償請求の訴えを提起したのですが,同事件の第1回口頭弁論がありました。

本件は,依頼者が,軽微な被疑事実で私人による現行犯人逮捕をされたものの,検察官による勾留請求が却下され,その後在宅捜査を受けていた中で,警察及び検察による取調べに弁護人の立会いを求めていたところ,結局取調べが実施されず,そうしているうちに検察官が全く同一の被疑事実での再逮捕状を請求し,これを受けた裁判所が再逮捕状を発付し,結果依頼者が再逮捕されてしまったことについて,検察官及び裁判所の各行為の違法性を問うものです。なお,依頼者は当該被疑事実について起訴されてしまいましたが,その後無罪判決が確定しています。

第1回口頭弁論において国側の具体的な主張は明らかにされませんでしたが,刑事事件における検察官は,要するに,「弁護人の同席を求めて取調べに応じないから,罪証隠滅,逃亡のおそれがある」と主張して,再逮捕状の請求に及びました。
「取調べの呼出しに応じないことが逮捕の必要性に結びつくか」というのは古典的な論点であり,模範的な回答は「取調べに応じないこと自体は直接逮捕の必要性に結びつかないが,不出頭が重なることなどによって罪証隠滅,逃亡のおそれといった逮捕の必要性が推認される場合もある」とされています。
本件では,依頼者は,「不出頭」ではなく,弁護人である私を伴って現実に警察署及び検察庁に多数回出頭し,取調べを実施するように求めています。それにも関わらず,捜査機関側から取調べを実施しないので帰るようにと求められたことからやむなく帰路についたものですから,依頼者こそ捜査機関によって「取調べを拒否された」立場にあります。捜査機関が弁護人の立会いを嫌って取調べを実施しないことはもちろん自由ですが,その不利益を再逮捕という結果でもって被疑者に帰せしめるのは,任意取調べにおける原則と例外を取り違えたものと言わざるを得ません。

以上の経緯でありながら,依頼者が取調べに応じないなどとした検察官の逮捕状請求は全く失当ですし,依頼者(及び弁護人)に対する悪感情が透けて見えるところです。なお,著名な刑事弁護士である金岡繁裕弁護士は,このような逮捕即日起訴がなされる狙いは弁護人による反論の機会を奪うことにあるのではないかとご指摘されています(http://www.kanaoka-law.com/archives/255)が,全く同感です。
また,裁判所も,検察官の失当な再逮捕状請求を看過し,通常認められない同一被疑事実での再逮捕を許可する逮捕状を発付するなど,およそ適切な審査をしていないことが明らかです(なお,検察官による再逮捕状請求は,一度は別の裁判官によって適切な審査を受けた結果,却下されています。それにも関わらず,その後再度の再逮捕状の請求がなされ,問題の逮捕状が発付されています。また,検察官は起訴と同時に裁判所の職権発動による勾留決定を求めましたが,裁判所は職権を発動せず,これに対する検察官の準抗告も速やかに棄却され,結局依頼者は再逮捕された当日中に解放されました。)。

取調べに弁護人が立会うことができるか否かは,かねてから刑事弁護実務における極めて重要な問題であり,日弁連も平成30年4月17日付けで刑事訴訟法上弁護人の取調べ立会権を明定すべきであるとの意見書を法務大臣に提出したところです(https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2018/180413.html)。
本件のように,本来取調べに応じるか否かすら自由であるはずの任意取調べにおいてすら弁護人の同席を求めた場合には逮捕されてしまうという異常な実情について,裁判所による適切な審判がなされることを期待します。

(弁護士 古田宜行)

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